東京都世田谷区・川崎市高津区にある野球教室のパイラスベースボールでは、どんな学びを子どもたちに届けるべきか、日々議論を重ねています。第5回のオンライン会議では、長らく甲子園大会を取材してきたスポーツジャーナリストの氏原英明さんを招き、新型コロナウイルスの影響で中止が決まった甲子園の魅力や課題を語り尽くします。
【ゲスト紹介】
氏原英明:(うじはら・ひであき/1977年ブラジルのサンパウロ生まれ。奈良新聞記者を経てスポーツジャーナリストとして独立。夏の甲子園大会をはじめ、野球界が抱える課題を幅広く取材している。著書に『甲子園という病』(新潮社)。)
「自分の代は優秀だった」長らく語り継がれる甲子園の魅力

國正光(パイラス・ピッチングコーチ) 今日は大きく3つのテーマを考えています。1つ目は氏原さんが長年取材している甲子園大会の光と影、2つ目は理想の指導者とは何か、最後はそうした指導者を輩出するために何ができるかです。早速1つ目のテーマですが、氏原さんは甲子園の魅力は何だと考えていますか。
氏原英明 魅力はたくさんありますね。特に、あの舞台の華やかさが何よりの魅力だと思います。選手のプレーは大勢の観客に注目され、報道陣からマイクを向けられて取材される時間も多いです。選手は、今まで味わったことのない気持ち良さを感じているんじゃないでしょうか。
今年は残念ながら甲子園は中止になってしまいました。私の身内が高校3年生で野球部に所属していますが、彼は「自分が甲子園に行けないのは仕方ないにしても、自分の代の甲子園大会は見たかった」と言っています。たとえ甲子園に出場できなくても、自分たちの代の選手は優秀だったと語り継がれていく。これも甲子園の大きな魅力です。
北條貴之(パイラス・バッティングコーチ) 確かにあれだけたくさんの観客が見に来ている中で自分の実力を発揮できる経験は、人生における大きな財産になると思います。
小林巧汰(パイラス代表) 私もやはり、甲子園の魅力は注目度の高さに尽きると思います。仮に甲子園がテレビで報道されなくなり、野球に関わっていない第三者の目が入らなくなると、人気は衰退するのではないでしょうか。
國正 1人の野球選手としては、甲子園という大きな目標に向かって行動することに価値があると思います。同時に、選手が血みどろを吐きながら練習してきたという過程が垣間見えることも、甲子園という巨大コンテンツの魅力なのかなと感じています。
甲子園が抱える「球数制限」という課題

氏原 私も『甲子園という病』という著書を執筆しているので、よく甲子園のことを嫌っていると思われがちですが、そんなことはありません。(笑)
ただ、選手への注目が集まることが魅力と言いましたが、注目度が高すぎるため、決まりきったプレーを求められるという負の影響もあります。例えば、ランナーが一塁にいる時はバントやヒットエンドランで進塁させないといけず、1球でバントを決めれば「よくやった!」と褒められます。
さらに今、甲子園で高校生が球数を投げ過ぎているという批判が出ていて、私も野球界のために戦ってきました。
例えば2008年夏の大会は、大阪桐蔭高校と常葉学園菊川高校の決勝戦となりました。結果的に17対0と大阪桐蔭が勝ちましたが、常葉学園菊川の戸狩聡希投手は左ひじを痛そうにしながら投げていました。当時、私は記事の中で数行しかこの話を書いていませんが、ただ球数を考え直すべきだと感じました。
2009年夏の大会では、背中を痛めていた花巻東高校の菊池雄星投手が、準決勝で負けた後に「腕が壊れても最後までマウンドにいたかった。人生最後の試合になってもいいと思いました」という驚きの発言をしていました。そこでは、メジャーリーグのスカウトと「これはおかしい」という意見が一致しています。
当時はまだ、「甲子園は素晴らしい大会だから批判してはいけない」という風潮が漂っていました。ただそれが、2013年春のセンバツ大会で済美高校の安楽智大投手が1試合234球を投げるなどあまりにも投球数が多い選手が出てきたことで、世界が一気に変わった。球数制限の議論が大きく動き、タイブレーク制度も導入されました。今後、球数制限などのルールを導入する必要があります。しかしそうなっても、甲子園の新しい面白さを発見できると思っています。
小林 球数が多すぎるという批判もありますが、甲子園は本当に高校球児のためになっているのでしょうか。
氏原 全国に4000ある高校のうち、何割かの野球部のためにはなっています。確かに、埼玉西武ライオンズの浅村栄斗選手や東京ヤクルトスワローズの山田哲人選手は、甲子園出場が注目される契機になったと思います。でも、ためになっているか不明な選手もプロ野球にはいます。
甲子園を始め、野球はトーナメント制の大会で結果を出すための指導が多い。
指導者も選手も短期的な発想でプレーしています。そうではなく、大学野球や社会人野球を見据えて長期的な視野を持つことが大事です。球数制限も、長期的に選手が潰れないようにするためには必須ですが、甲子園という巨大な目標を乗り越えるためにどうしても見落とされがちになっています。
>後半に続く
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