プロ野球のデータアナリストが語る「野球指導者のあるべき姿」

野球教室のPyrus Baseballでは、どんな学びを子どもたちに届けるべきか、日々議論を重ねています。第6回のオンライン会議では、野球のデータアナリストである金沢慧さんを招き、データアナリストの目線で見た野球の面白さや野球指導の在り方について教えてもらいました。

【ゲスト紹介】
金沢慧:(かなざわ・けい/高校まで野球部に所属。学習院大学経済学部経済学科、筑波大学大学院体育研究科を経て、スポーツデータの分析を行うデータスタジアムに就職。プロ野球各球団でのデータ活用のサポートを行う。NHK「ワールドスポーツMLB」、「球辞苑」やAbemaTVのプロ野球中継などでデータ解説役としてメディア出演)

野球が他のスポーツよりデータ分析しやすい3つの理由

國正光(パイラス・ピッチングコーチ) データアナリストはどのようにスポーツに携わっているのでしょうか。

金沢慧 データアナリストの仕事は、誰かの課題解決のためにデータを分析することです。分析対象は、ミクロで短期的な目線かマクロで中長期的な目線か、またチームの内部か外部かによって大きく4つに分類できます。

ミクロで短期的な目線でのデータ分析というのは、チームが今日の試合に勝つために監督がどういう戦術を取るか、といったものが例に挙げられます。この状況では、チーム内の選手を分析対象にするケースと、チーム外の対戦相手を分析するケースがあります。例えば、「相手の◯◯選手はプロ野球のシーズン開幕戦で毎年必ずヒットを打っている」というデータがある場合、「今年の開幕戦は凡退が続いているが、そろそろヒットを打つのではないか」という見方ができます。

もう一つのマクロで中長期的な目線でのデータ分析というのは、今日の試合は負けてもいいからこのピッチャーは休ませるというチーム編成を考える、翌年のシーズンに向けてこのチームはどんな選手を補強すべきかを考える、といったものです。これらのデータ活用は、スポーツメディアの分析やスポーツファンが試合観戦をする上でも役に立ちます。

國正 スポーツごとにデータの活用度は違っているのでしょうか。

金沢 一試合で複数の得点が入る、データを取得するための試合数が多い、セットプレーが多いという3つの要素が揃っているため、プロ野球は比較的分析しやすいスポーツだと言えます。

スポーツという勝負事の世界では、「得点をどう増やすか」という目的のためにデータ分析を活用しています。ですので、サッカーのように一試合に一点しか入らない場合があるスポーツは分析が難しいです。同じく、アメフトのようにプロの世界でも年間16試合しかなく、分析するデータ量が少ないスポーツも分析しにくいです。

最後のセットプレーの多さとは何か。野球はノーアウト満塁だとイニング終了までに平均2得点入り、これが反対にツーアウトランナー無しだと0.1〜0.2得点しか入らないというデータがあります。つまり、こうした特定の状況によって期待される得点が大きく左右されるため、出来るだけノーアウト満塁のようにより得点が入りやすい状況をつくることを目指すのも、データ分析が活かされやすいスポーツの特徴です。

こうしたデータ活用の面白さを一言で言えば、正解がないことだと思います。データを使えば正しく成果が出ると思われがちですが、そうではありません。データは指導する側のリテラシーの一つでしかなく、知識を蓄えて戦術の幅や選択肢を増やすことが目的です。

野球指導者は「課題解決のサポーター」を目指すべき

北條貴之(パイラス・バッティングコーチ) 私は大学野球でコーチを務めていますが、相手チームがプレーする映像を手に入れて、この相手バッターの打球は左右どちらの方向によく飛んでいるかを調べるなどしています。しかし、金沢さんの言う通り、こうした事前のデータ分析と当日の相手選手のパフォーマンスが異なることはよくありますね。

金沢 そのケースをデータアナリストの視点から分析すると、「制約がある条件で取得したデータだから、ある特定の部分にしか当てはまらない」という事態が起きているのだと思います。取得したデータをどううまく表現していくかは、常に考えないといけません。

スポーツアナリストの業界団体がデータ分析の分類をまとめていますが、扱うデータや指導の専門性は多種多様です。データの中でも映像を扱うアナリストは、監督やコーチに対して「映像を見ると戦術はこう変えたほうがいい」という提案をします。ただ、これだけでは選手のパフォーマンスは良くなりません。ですので、パフォーマンスの向上を前提とした場合、身体操作のスキルを向上するためのデータや、心理的要因を改善するためのデータを分析するアナリストの出番になります。

國正 データアナリストの視点から見て、野球の指導者はどうあるべきだと考えていますか。

金沢 選手の成長を課題とするならば、この課題を解決したい主体は選手本人です。指導者やコーチは、あくまで課題解決のサポーターであるべきだと思っています。指導者はサポーター側であると認識されていることが、チーム全体にとって一番大事ではないでしょうか。

國正 パイラスでは指導する生徒数がまだ多くないのですが、今のアマチュア野球では、一人の監督やコーチが30人の子どもを指導することもあります。子どもたち一人ひとりのために、指導者が果たすべき役割を細かく設定するのは難しいのが現状です。この現状を打破するために、どういった取り組みが必要なのでしょう。

金沢 指導内容を特化することに尽きると思います。今はYouTubeの動画を見て学べる内容も色々とあります。まず、「ここのアカデミーは子どもたちのこれを高めます」というベースの指導内容を設定する。その内容は戦術や心理的要因など複数あると思いますが、それぞれに高い専門性を持つ人を一定数集める。その上で、動画などアカデミー以外で得られる学びを活用しつつ、子どもたちの学びを総合的に把握する管理者を設ける。こういうかたちで選手のパフォーマンス全体を伸ばすアカデミーがあってもいいと思います。

小林巧汰(パイラス代表) 今後パイラスの活動を拡大していく上で、ある分野に特化するアイデアは大事ですね。例えば、サッカークラブに通っていながらも、パイラスのコーチが精神的なメンターを務めるという可能性もあると思っています。今後野球界で求められるアドバイザーとは、そういう存在なのかもしれません。

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