現役高校球児に贈る大学野球の隠れた魅力 高校野球のスター選手を下剋上できる?

野球教室のPyrus Baseballでは、どんな学びを子どもたちに届けるべきか、日々議論を重ねています。オンライン会議では、高校野球と大学野球を両方経験したコーチたちが、両者のレベルの差と大学野球の魅力を語り合います。

高校野球と大学野球の違いは走攻守のスピード感

小林巧汰(パイラス代表) 今回は高校野球と大学野球の違いについて話していきたいと思います。実際にどちらも経験してきたパイラススタッフの皆さんは、両者のレベルの違いをどう感じていますか。

北條貴之(パイラス・バッティングコーチ) 最大の違いはスピード感だと思います。バッターのスイングスピード、ピッチャーの投げる球、そしてランナーの走る速さは大学野球のほうが断然速い。打球の飛距離だけいえば、打者が使うバットが金属から飛びにくい木製に変わるのでそんなに変わらないかもしれません。ただ、高校野球だと遠くに飛ばせるバッターがチームに3〜4人くらいいますが、大学野球ではスターティングメンバーの打者9人全員がホームランを打てる集団になります。

國正光(パイラス・ピッチングコーチ) 私はピッチャーとしてたくさんのバッターを相手にしてきました。高校野球では、打順が下位でそこまで力のないバッターたちを、どれだけ体力を使わずに抑えられるかがポイントでした。一方の大学野球では、スタメンに満遍なく優れたバッターがいるため、常に警戒が必要でした。確かに大学野球では、バッターは飛ばしにくい木製バットを使うので、バットの芯を外してボールを打たせればアウトにできます。しかし、そうした変化にアジャストしてくるバッターがゴロゴロいるのが大学野球です。

またピッチャー目線に立つと、投げるボールの質が高校野球と異なります。高校生が投げる145キロのボールより、大学生が投げる140キロのボールのほうが速く感じます。これは、大学野球のピッチャーのほうが打者の手元でのボールのノビやキレを意識して投げているからです。さらに、大学野球は高校野球よりストライクゾーンが極端に狭くなるので、それに対応してピッチャーにはより精緻なコントロールが求められますね。

小林 大学野球のレベルが高いと言われる理由ですが、単に野球が上手な選手たちが集まっているからなのか、それとも大学野球で練習を繰り返していき段々とレベルが上がるからなのでしょうか。

國正 前者の理由もあります。高校野球までやってきた選手が自ら意思決定をして大学野球に進むので、結果としてベースの野球のレベルは高校野球より高くなるでしょう。ただ高校野球ではあまり練習せずポテンシャルで活躍していた選手たちも、大学野球では試合に出るために練習を続けなければなりません。

自分の話をすると、150キロのボールを投げるピッチャーがたくさんいる中で、私は決して速いボールを投げるタイプではなく、ピッチャーとしてボールの質とコントロールを磨かないと試合に出れませんでした。だからこそ大学野球で意識や練習のやり方を変え、今の環境下で相手バッターに投げ勝つためのパターンを模索するようになりましたね。

小林 それは監督やコーチといった指導者の影響が大きいのでしょうか。

國正 高校野球では、自分のやり方が正しいと思って我流で練習をしていましたが、実は大学野球でもそうでした。(笑)ただ大学野球には、プロ野球の世界に行くような選手がたくさんいます。私が所属していた当時の同志社大学では、上級生に読売ジャイアンツの小林誠司捕手が在籍していました。寮の小林捕手の部屋まで遊びに行き、どういう意識で練習しているかを直接聞く機会があったので、必然的に練習に対する意識が変わりましたね。

そうした学びを経て、大学野球で変えたものの一つがボールの投げ方でした。高校野球まではやや横から投げるスリー・クォーターと呼ばれる投法で投げていましたが、ただそれだとストレートの威力が弱すぎるという課題があったので、ボールによりスピンをかける投げ方に変えました。

北條 大学野球では、独学で高いレベルに達することは難しく、どういった人と関わるかがとても大事だと思います。小林捕手のように甲子園の決勝に出場した選手の話を聞けば、自分の目標も変わり、練習の仕方や試合でのパフォーマンスも変わるものですからね。

大学野球では高校時代に手も足も出なかった選手を追い越せる

北條 バッター目線だと、しなやかなバッティングができるかどうかが、大学野球で一番苦戦する点だと思います。高校野球で使用される金属バットだと、バットに当たりさえすればボールは飛びます。ただ、木製バットだとバットの芯に当たらないとボールは飛びません。そのために、柔らかくバットを振って芯に当てる必要があります。

よくある大学野球の苦労話として、インコースのボールを力任せに打とうとして木製バットが折られてしまう、というものがあります。木製バットは1〜2万円くらいしますが、バット代を自腹で払う大学もあるので、バットを折られると心を折られます(笑)。「大学野球はバットを折ってから始まる」とすら言われています。どうしたらバットを折られないでバッティングできるだろうかと考え、力を入れるタイミングを重視して練習するようになり、大学野球のレベルに慣れていくのです。

小林 単なる純粋な野球好きでは大学野球では通用せず、自分で考えて練習内容を研究する姿勢が大事ということですね。

北條 大学野球では、一度プライドを捨てないといけません。いくら高校野球で通算ホームラン数を30〜40本打っても、スイングの仕方によっては大学野球では苦労するだろうと思う選手がいます。そうした選手が大学野球で挫折するケースはかなりあります。

そういう意味では、高校野球では手も足も出なかった選手を追い越せるのが大学野球であり、それが大学野球特有の面白さかもしれません。うまく大学野球に順応していった選手から、どんどん下剋上が起きています。

國正 なぜ打球が飛ばないか、なぜ今の投球で打たれてしまうかを考える思考回路がないと、大学野球ではつらいと思います。高校野球の試合形式はトーナメント形式の勝ち抜き戦なので、その日の一試合がうまくいけばいいです。

ただ大学野球の試合は、複数チームによるリーグ戦形式が一般的です。1つのリーグ戦の開催期間は約二ヶ月間にわたります。勝っても負けても次の試合で結果を出すために、日々の練習の組み立て方とメンタル面の調整の仕方を培わないといけません。

北條 試合形式の違いでいうと、トーナメント形式の高校野球では100を超える野球部から抽選で対戦相手が選ばれます。つまり、未知のチームと戦うことになります。一方のリーグ戦形式の大学野球では、参加する6チームはほとんど毎年固定されているので、戦い方の手口を知っているチームが対戦相手になります。そうした相手と1カードで3試合するので、お互いの弱点を丸裸にしながら対戦するという点も高校野球と違いますね。