東京都世田谷区・川崎市高津区にある野球教室のパイラスベースボールでは、どんな学びを子どもたちに届けるべきか、日々議論を重ねています。オンライン会議の後半では、練習内容や選手起用、人気度といったテーマで大学野球と高校野球の違いを語りました。

高校野球と大学野球では「心」の使い方が明確に違う
小林巧汰(パイラス代表) 高校野球と比べたとき、大学野球の練習についてはどのような印象を持っていますか。
國正光(パイラス・ピッチングコーチ) あくまで私の場合ですが、高校野球と違い、大学野球では決まった時間にチーム全体で練習する機会は少なかったです。チーム全員が集まるのは毎週水曜日だけで、あとはポジションごとに何曜日にこういう練習をするといった感じでしたね。練習そのものは、私はそこまで厳しいとは感じていませんでした。
北條貴之(パイラスバッティングコーチ) 練習がきついかどうかはチームの方針によると思います。私の場合、高校野球はメンタル的にきつかった。自分で考える時間がなく、監督の指示に全力で応えてしましたからね。一方の大学野球は、自分で考えて練習をしていたので心は楽でした。ただ、一日中グラウンドで練習することもあったので、大学野球のほうが体力的には厳しかったです。
小林 日米の野球を比較すると、日本は圧倒的にグラウンドに立っている時間が長いと思います。私は大学からアメリカで野球をしていましたが、「野球ってこんなにラクで楽しいんだ」とアメリカで初めて感じました。練習は午前中で終わることもありました。ただし、アメリカのウェイトトレーニングはきつかったですね。練習1時間やった後にウェイトトレーニングを1時間やることもありました。コーチによる技術指導はほぼなく、徹底して体力つくりをしていた印象です。
北條 パイラスでは子どもたちに「心・技・体」の順番で野球を教えていますが、高校野球や大学野球では「心・体・技」の順番で重視されていますね。体力や筋力を鍛えないと、周囲のレベルに対応するための技術は身につきません。ウェイトトレーニングを含め、体力を鍛えることが高校や大学で重視されている理由はここにあると思います。
國正 高校野球と大学野球では「心」の使い方が明確に違います。高校野球のトーナメント形式では一度負けたら終わってしまい、その大会に向けていかにモチベーションを高められるかが大事になります。片や1カードごとに3試合するリーグ戦形式の大学野球では、負けても切り替えて翌日の試合に出ないといけません。1試合目に投げたピッチャーが3試合目に投げることもあるので、次の登板を考えつつピッチングする気概が求められます。
大学野球はリーグ戦だからこそ、選手の起用方法にもバリエーションが出てきます。優勝という長期的な目標を見据えてエースを休ませたり、相手が左ピッチャーなので相性を考えてスターティングメンバーを変えたりと、出場選手が固定されにくいという特徴があります。エースピッチャーしか生き残れないわけではありません。四球連発で荒れている試合において、展開を落ち着けるためにコントロールが取り柄の中継ぎ専門ピッチャーがワンポイントで投げるなど、あらゆる選手が活躍する場が必然的に生まれてきます。
北條 亜細亜大学に所属していた私の先輩に、1年生から4年生までバント要員としてひたすらバントをし続けた人がいました。その先輩は「すごいやりがいがある」と言っていました。特定の状況下で力を発揮するために練習を続ける選手がいて、そうした選手たちが活躍できる環境もあるのが大学野球の特徴です。
小林 野球では、「心・技・体」の三拍子が揃っていないと活躍できないと思われがちです。その中で高校野球では、心はあまり重視されず、技術や体力がある選手が活躍する。ただその先の大学野球では、三拍子が揃っていなくても気持ちを高く保っている選手や、特定の技術を極めた選手がリーグ戦で活躍できる可能性があるといえそうですね。

どうやったら大学野球の人気度は上がるのか
國正 もちろん大学野球は、「心・技・体」全てのレベルが高いです。ただ、下剋上できるチャンスもあります。高校野球は入学してから最後の夏の大会まで、2年半ほどです。そのうち本格的に参加できるのは、1年生の秋の大会から3年生の夏の大会までの5回しかありません。それと比べると、大学野球は高校野球より1年間長く、その分活躍できるチャンスが増えます。環境や技術が整っていれば、それまで活躍できなかった選手が大学野球で開花する可能性もあります。高校野球で不完全燃焼だった人は、ぜひ大学でも野球をやるべきだと思います。
北條 そうしたレベルの高いプレーが出るとはいっても、大学野球は高校野球と比べて人気がないのは事実です。その理由の一つが、甲子園を筆頭にブランディングの差ではないでしょうか。甲子園のように試合ではもっと吹奏楽を鳴り響かせる。そうして、もっと華やかなイメージを大学野球でも定着させるのがいいかもしれません。
國正 高校野球ファンは、自分の青春を選手たちに重ね合わせて観戦しています。新たなエンターテイメント性をもたせたり、テクノロジーをかけ合わせたりするなどして、独自のブランディングを構築することが大学野球には求められます。最近、大学の野球部のマネージャーや部長がSNSを通じて発信しています。そこにマーケティングのプロの目線をかけ合わせて、大学野球というブランドを根底から変えていく必要があると思います。
小林 この観点でも、アメリカの野球は本質をついていると思います。以前、アメリカの友人に「なんで日本人は、大学野球よりレベルの低い高校野球をあれだけ見に行っているの?」と言われたことがあります。
その一方、アメリカの大学野球はあらゆるアマチュアスポーツの中でも人気を誇っています。 今日の話を振り替えると、野球そのものを静かに楽しめるのが大学野球の良さだと感じました。高校野球では指導者に振り回されることもありますが、大学野球は唯一自分自身と向き合い、自分で考えて野球が出来ます。その魅力を今後も発信していきたいですね。