敬遠は野球の勝敗を左右する局面で使われる采配の一つです。今回はその敬遠について、用語解説・日本の敬遠記録と歴史を一挙に紹介します。

敬遠とは

敬遠とは、ピッチャーがバッターに対して故意的にフォアボールを与えることです。

また、敬遠はバッターがボールに当てることのできない距離にボールを投げる必要がある為、キャッチーが立ち上がりバッターとの距離を取った場所にボールを要求します。

更に2018年からは申告敬遠が導入され、4つのボール球を投球することなく敬遠を行えるようになりました。

敬遠を選択する場面

敬遠をする場面は守備側のチームがピンチを迎え、相手バッターが強打者である時、ヒットを打たれたくない時、次のバッターの方がよりアウトを取りやすい時です。

敬遠は監督がサインを出すこともあれば状況によってはキャッチャーが指示することもあります。

また、敬遠は合終盤の勝負がかかった場面で用いられることが多いです。

敬遠するメリットとそのデメリット

敬遠にはメリットとデメリットがある為、状況に応じて適切な判断を下す必要があります。

メリット

敬遠はホームランを含む長打を回避できたり、打ち取りやすい次のバッターと対戦ができることです。

デメリット

敬遠は無条件でランナーを出塁させる。

申告敬遠とは

申告敬遠とは、2017年より導入された新たなルールです。

これまで四球のボールを投球することで敬遠が成立していたのが、守備側のチームの監督が敬遠の意思を申告をすることで、ボールを投球せず敬遠が成立するようになりました。
これは試合時間短縮を狙った施策で、2017年にアメリカのメジャーリーグ(MLB)が導入し、翌2018年に日本プロ野球(NPB)に導入されています。

敬遠のプロ野球記録【徹底分析】

敬遠におけるプロ野球の記録を、申告敬遠の導入前と導入後での変化、リーグ別の記録、チーム別の記録、シーズン別の敬遠記録、現役選手の通算記録、歴代通算記録と様々な角度から徹底分析します。

リーグ別敬遠数(2016年~2021年シーズン)

申告敬遠が導入された2018年、セリーグでは前年比3.6倍にあたる156回の敬遠が、パリーグでは2.7倍にあたる129回の敬遠を行われています。

また、2018年以降セリーグが常にパリーグよりもより多くの敬遠を行っており、DH制を導入するパリーグは敬遠をするメリットをあまり感じられていないことが推察されます。

チーム別敬遠数(2016年~2021年シーズン)

2016年から2021年で行われたチーム別の敬遠数を分析し解説します。

セリーグ編

申告敬遠導入後の横浜DeNAベイスターズは、2017年から2019年で4.4倍の62回の敬遠が行わるも、三浦大輔新監督になってからの2021年は20回と敬遠数を減らしました。

一方、阪神タイガースは年々敬遠の数増加しており、2021年はセリーグ最多となる36回の敬遠を行いました。

パリーグ編

申告敬遠が導入された2018年には、千葉ロッテマリーンズを除く5チームが敬遠の回数を増やし、中でも東北楽天ゴールデンイーグルスが前年比6倍にあたる36回の敬遠を行いました。

しかし、2019年以降多くのチームが敬遠数を減らし、2021年は申告敬遠導入前の水準に戻しています。

シーズン別敬遠記録(2020年~2021年シーズン)

2021年シーズン

セ・パ両リーグの個人での敬遠の記録は次の通りです。
セリーグ:鈴木誠也(広島)11敬遠(シーズン成績:3割1分7厘、38本塁打)
パリーグ:柳田悠岐選手(ソフトバンク)8敬遠(シーズン成績:3割0分0厘、28本塁打)

昨年同様、両選手の特徴はホームランも多く打ちながら打率も残せる選手がトップを飾りました。また、セリーグでは鈴木誠也選(広島)は2年連続で最多敬遠数を獲得しました。

2020年シーズン

セ・パ両リーグの個人での敬遠の記録は次の通りです。
セリーグ:鈴木誠也選手(広島)12敬遠(シーズン成績:3割3分5厘、28本塁打)
パリーグ:吉田正尚選手(オリックス)12敬遠(シーズン成績:3割2分2厘、29本塁打)

両選手の特徴はホームラン数が多いだけでなく打率も残せる選手ということが分かります。

現役選手編(2021年シーズン終了時点)

通算敬遠数1位にランクインしたのは、東京オリンピック 侍ジャパンのキャプテンを務めた坂本勇人選手(巨人)の51回でした。2位には吉田正尚選手(オリックス)がランクインし、3位以降にも各チームの強打者が名を連ねました。

歴代記録編(2021年シーズン終了時点)

敬遠数歴代最多記録は世界のホームラン王の王貞治氏がランクインしました。その敬遠数はなんと427回と、2位の張本勲氏の228回と大きく離し堂々たる1位を飾っています。

順位敬遠数選手名
1位427回王貞治
2位228回張本勲
3位205回長嶋茂雄
4位189回野村克也
5位182回門田博光
※2021年シーズン終了時点

敬遠の記憶【伝説編】

敬遠において野球ファンの記憶に残る伝説を3つご紹介します。

5打席連続敬遠

第74回全国高等学校野球選手権大会(1992年)第二回戦、明徳義塾 対 星稜高校の一戦で起こった「松井秀喜選手(元ニューヨーク・ヤンキース)への5打席連続敬遠」です。

当時の松井選手は強打者として甲子園に名を轟かせ、ツーアウトランナーなしの場面においても敬遠されたという記録があります。

敬遠球サヨナラタイムリーヒット

1999年6月12日に行われた阪神対巨人伝統の一戦、試合は延長12回ウラ、1アウト1・3塁の場面で打席には新庄剛選手(当時:阪神タイガース)。

新庄剛選手は槙原寛己選手(当時:読売ジャイアンツ)が投じた敬遠球をサヨナラヒットにしたのです。

満塁で敬遠

1998年5月28日に行われた、アリゾナ・ダイヤモンドバックス対サンフランシスコ・ジャイアンツの一戦。

試合は9回ウラ、2アウト満塁、8対6でダイヤモンドバックスが2点リードの場面で打席には当時最強打者と呼ばれたバリー・ボンズ選手(サンフランシスコ・ジャイアンツ)。満塁にも関わらず相手ベンチはホームランを恐れ、ボンズ選手に敬遠を与えたのです。

敬遠は試合の勝敗を決める場面での戦略

敬遠は試合を決める大事な局面で用いられる戦略である為、野球ファンに多くの記憶を残します。敬遠について「正々堂々ではない作戦」などといった意見が多くありますが、それも含め野球を楽しんでもらえればと思います。

ちなみに…敬遠を英語で

敬遠はIntentional Walk(インテンショナル・ウォーク)といいます。

故意的にフォアボールを与えることからIntentional(故意的)が使われます。