東京都世田谷区・川崎市高津区にある野球教室のパイラスベースボールでは、少年野球(学童野球)世代の子どもたちやその親に対して、野球を通じて考える力や決断する力の大事さを教えています。今回はテレビ神奈川でアナウンス部長を務める吉井祥博さんに、野球の試合を実況するアナウンサーの仕事内容を聞きました。

アナウンサーになるためへの道筋

野球を好きになり始めたのは小学校4年生くらいの頃で、ちょうど読売ジャイアンツの長嶋茂雄選手の現役引退(1974年)と同じ時期だったと覚えています。野球チームには入りませんでしたが、近所の子どもたちと一緒に野球をやったり、ナイター中継をテレビで見たりと、ずっと野球に熱中していました。

今ではアナウンサーとして働いていますが、高校時代は、野球を近くで観戦できるだろうという思いから新聞記者になりたいと考えていました。その後、マスコミへの就職実績を踏まえて、早稲田大学に進学します。

転機になったのが、大学の放送研究会というサークルとの出会いでした。発声練習に体験参加してみて、もともと誰かに物事を伝えることが得意ではなかったので、それを克服したいと思い放送研究会に入会しました。それを機に、野球実況の面白さにのめり込んでいきます。

大学3年生の終わり頃には、アナウンサーになるための専門学校に入り、大学4年生の就職活動では、とにかく自分がやりたいことを実現するために東京のキー局や地方局などたくさん面接を受けに行きました。ご縁もあり、地方局の中でもスポーツ中継に力を入れていた岩手放送(現在はIBC岩手放送)に入局します。

若手として経験を積んだ後、地元東京の近くでプロ野球中継に関わりたいという思いがあって、1995年にテレビ神奈川の中途採用試験を受けて合格。そこから約25年にわたり、高校野球やプロ野球を始めとして、サッカーやラグビーなどあらゆるスポーツ中継にアナウンサーとして携わってきました。

アナウンサーの働き方

私が若手アナウンサーだった頃、岩手放送にはテレビとラジオが両方あったので、とにかく1時間に1回はニュース原稿を読み上げていました。1日8時間のシフト制で交代勤務していましたが、とても忙しかったです。ただ、テレビ神奈川に来て今に至るまでも、大変さに大差はありません。

アナウンサーの働き方の特徴は、原稿を読む時間よりも下調べの時間が圧倒的に多いことです。高校野球中継に臨む場合は、時間を許す限り、対戦する2チームの選手全員に対してレギュラーと控えは関係なく取材をします。1チーム分の参考資料を作るのに4〜5時間かかります。

プロ野球中継に臨む上で、シーズン中は毎日していることがあります。どの試合のどの選手が何打席で何本ヒットを打ったかなど、試合に関するあらゆるデータを資料として整理する作業です。これに1日2時間半くらいかけています。

プロ野球のシーズン中に情報収集されたノート(写真提供:吉井祥博さん)

地元神奈川の横浜DeNAベイスターズの試合は、アナウンサーとして中継するため厚めに資料を作りますが、リーグ交流戦で対戦する可能性を考えて12球団の全試合の記録を毎日つけています。プロ野球中継のための資料作成と高校野球中継のための資料作成が同じ日に重なった時は、本当に大変です(笑)。

日々の中継では、取材した内容の30%くらいしか語りません。取材の残り70%は違う中継でいざという時に役立てます。取材の積み重ねが、必ず中継のどこかににじみ出てくるものです。アナウンサーは、見えないところで毎日そういう勝負を繰り返しています。

アナウンサーの事前準備は、いくらでも楽はできますし、選手名さえ知っていれば中継は可能です。でも、それでは理想とする良い中継はできません。どんなに年を重ねても、アナウンサーがやることは変わらないのです。

アナウンサーの働くモチベーション

私は本当に野球が好きで、仕事は大変ですが全く苦にならないくらい夢中で仕事をしています。私のアナウンサーとしてのモチベーションは、試合に関わった選手や中継を見てもらった人のうち、一人でも多くの人に「良い中継だった」と思ってもらうことです。

事前準備など中継に向けて積み重ねた時間と比べると、喜びは本当に一瞬だけです。自分の目の前に好きなものがあり、自分の感動をアナウンサーとして誰かに伝えたくて中継する。それが伝わった一瞬が嬉しく、そしたらまた次の仕事が待っているという繰り返しになります。

アナウンサーとして伝え方を間違えたかもしれないと思った時は、私もよく悩みます。思い出すのが、2009年の神奈川県高校野球大会における、横浜隼人と桐蔭学園による決勝戦です。試合は延長線の末に、横浜隼人側の選手がセカンドを抜ける打球を打ってサヨナラ勝ちします。

実は、守備をしていた桐蔭学園のセカンドは本当に素晴らしい選手なのですが、試合中に足を痛めていたのが分かっていました。しかし、セカンドに打球が飛んだサヨナラの描写で、私は「ああ、(ボールを)取れない」と言ってしまった。でも本当はボールが「抜けた」と言うべきでした。放送中の発言は、書いた原稿と違って消しゴムで消すことはできません。

アナウンサーは、自分の言葉の責任の重さを感じながら、色々な反省を忘れずに次に生かすことで、成長していきます。

アナウンサーに必要なスキルや適性

アナウンサーにも色々な人がいます。発音の正しさや発声、原稿を読むスキルは、練習を重ねればある程度まで誰もが上達します。その一歩上を目指して、「良いしゃべり」を身につけるためには、人の話にしっかり耳を傾けて聞けるというスキルが必須条件です。人と人が話している時に割り込んだり、明らかに忙しそうな人に自分の都合だけで話しかけたりしてしまうのでは駄目です。

アナウンサーは常に何かを客観的に見て実況する仕事であり、自分主導では仕事ができません。話の語り手や実況する相手に興味を持ち、同時に相手からも人として好かれ、信頼関係を築いてもらえることが大事です。そういう意味では、アナウンサーはよく知らない人から道を尋ねられる人が適していると私は思っています。

少年野球の子どもたちに向けたメッセージ

「野球をやってくれてありがとう」。これが少年野球をやっている子どもたちに対する正直な思いです。私も野球が大好きであり、いつの日かアナウンサーとしてあなたの試合を実況できる日が来るかと思うと、すごく嬉しいです。

普段は気が付かないかもしれませんが、あなたの親御さんなど、少年野球をやってくれることで喜んでいる人があなたの周りには必ずいます。一生懸命に取り組んだことには、きっと誰かが「素敵だ」と思ってくれています。

(写真提供:吉井祥博さん)

取材協力:吉井祥博(よしい・よしひろ/1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学で放送研究会と出会ったことをきっかけに、アナウンサーの道を志す。早稲田大学を卒業した後、IBC岩手放送に入局。95年にテレビ神奈川に籍を移し、25年間にわたって地元神奈川の高校野球やプロ野球の試合実況などを担当。現在はテレビ神奈川のアナウンス部長を務める。)