東京都世田谷区・川崎市高津区にある野球教室のパイラスベースボールでは、どんな学びを子どもたちに届けるべきか、日々議論を重ねています。第5回の後半では、スポーツジャーナリストの氏原英明さんに高校野球の現状を踏まえた理想的な指導方法を語ってもらいます。

ゲスト紹介

氏原英明:(うじはら・ひであき/1977年ブラジルのサンパウロ生まれ。奈良新聞記者を経てスポーツジャーナリストとして独立。夏の甲子園大会をはじめ、野球界が抱える課題を幅広く取材している。著書に『甲子園という病』(新潮社)。)

高校野球の練習は大会を意思した内容に縛られている

小林巧汰(パイラス代表) 高校野球の現状は、ただ単純に甲子園などの大会を目指すために練習メニューを組むか、それとも高校野球の先にある大学野球や社会人野球を見据えて練習するか、二極化している印象を受けます。

氏原英明 二極化どころではありません。高校野球の大会はすべてトーナメント制です。どこも大会を見据えて送りバントなど負けない野球を植え付けられるため、どうしてもこじんまりしたプレーばかりになります。

一つ注目しているのが、強豪校の大阪桐蔭高校野球部です。年がら年中、大会に向けた練習を繰り返す野球部が多い中で、大阪桐蔭は違います。大阪桐蔭は大会が終わったタイミングで、選手の練習内容をリセットしています。普段は、練習風景をビデオで撮影して個々の練習内容を見つめ直す。そして大会が始まるタイミングでリセットして、トーナメント大会で勝つための練習に切り替える。その過程では、次の大会に出場する実力がまだない選手に対して、「その次の大会でベンチ入りすることを目標にして頑張れ」と言って練習させる。こうして将来をちゃんと意識しているからこそ、選手が成長していくのです。

また、川越東高校野球部の渡辺努監督の話も参考になります。渡辺監督はアメリカン・フットボールの練習を見た時に、攻撃型練習と守備型練習を切り替えるなど曜日ごとに練習内容を決めていることに気が付いたと言います。反対に高校野球では、昼休みに「今日の練習は何ですか」とキャプテンが監督に聞きに行った時に練習が分かる世界です。

しかし本当は、曜日ごとに練習内容を決めたほうが子どもたちはイメージしやすい。(ピッチャー・バッター・守備選手が実践形式で練習する)シート打撃が木曜日にあれば、ピッチャーは水曜日に投げないように調整できます。こうして曜日ごとに練習内容を決めれば、全体の調整方法を選手自らで考える力を身に付けられると思います。

選手の怪我を見極める、学ぶべき野球のスカウトの目線

國正光(パイラス・ピッチングコーチ) ここまでの話をまとめると、2つ目のテーマとして挙げた「良い指導者とは何か」に対する答えは、中長期を見据えて子どもたち自身に考えさせることだと感じました。では、私たちパイラスが何に取り組むかを含め、良い指導者を増やすためには何をすべきなのでしょうか。

氏原 これは難しいテーマです。私としては、地道な講演活動をしていくしかないと思っています。パイラスとしては、これから活動範囲を広げていく中でたくさんのコーチをパイラスに入れていき、きちんと教育された指導者がパイラスからどんどん巣立っていくのが理想だと思います。1つのクラブだけが改善しても意味があまりありません。

一番の理想形は指導者向けの学校をつくることですが、育成メソッドを確立しないといけないという問題があります。参考になるのが、サッカー界にあるクーバー・コーチング・ジャパンというスクールです。ここには指導者育成のカリキュラムがあり、ライセンスを取った指導者ではないと選手に教えられない環境を整えています。野球界では、元プロ野球選手が指導すると謳った野球アカデミーも多いですが、中には中身がないと思うところもある。指導者育成のスクールは野球界には少なく、設立する価値はあるでしょう。

こうしたコーチングの方法を考える上で、スカウトの選手に対する見方が役立つと思います。例えばスカウトはたくさん試合を見ていますが、一番大事なのは選手の変化を見極められるか。例えば、怪我をしているか、無理していないかさえ見抜けないといけないと聞きます。良いスカウトは、人間が怪我したときの行動心理を理解して、選手の立ち振る舞いから怪我を見抜けるようです。こうしたスカウトの目線は、指導者を育てる上でも生きるのではないでしょうか。

北條貴之(パイラス・バッティングコーチ) 指導者目線で話しますと、選手一人ひとりの考え方を選手同士で共有し、1つの目標をみんなで目指すのが私の理想です。ですが、甲子園に出場した経験があるなど高校野球で良い経験をしてきた選手は、この目標を達成する上で障害になることがあります。彼らはこれまで教わってきたことがすべてと決めつけることが多く、新しい何かを見つけようとする機会が少ないです。

氏原 他人の考え方を許容できないという問題は、プロ野球選手を取材しても感じます。プロ野球で活躍した選手にブレイクのきっかけを聞くと、うまく言葉で言い表せない選手がいます。コーチに言われたことだけを続けて自分で考えられない人は、良い結果を出しても継続できず、伸び悩んでしまう選手も多いです。長年プロ野球選手を取材する中で、例えばメジャーリーグに移籍した秋山翔吾選手は自ら不器用だと認めていましたが、プロ野球選手の中でも特に考える力が長けていたように思います。

なぜ選手自らで考えられないか。それは、少年野球の指導環境には子どもたちに考えさせることができない指導をしているからではないでしょうか。指示されないとできないタイプの子どもたちもいるのが難しいところでしょう。すぐに自分で決められない子どもに対しては、最初は指導者から色々と提示して、考える癖をつけてあげる必要があります。

國正 特に野球の指導といえば、軍隊風のトップダウン形式が多く、選手に問いを投げかけることは少ないです。具体的な目標を考えさせ、そこに至るまでの第一歩を考えさせるのが良い指導者だと思います。子どもたちと一緒に手を取り合い、考える環境を頑張って整えていきたいです。

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