世田谷区・高津区で活動する少年野球チーム「パイラスアカデミー世田谷」は、少年野球(学童野球)世代の子どもたちやその親に対して、職業紹介を通じて野球の魅力を伝えています。今回はスポーツメーカーのミズノ(MIZUNO)で働く若林宏樹さんに、スポーツメーカーの仕事内容を聞きました。
スポーツメーカーに就職するための道筋
小学校から大学まで、学生時代はずっと野球をやっていました。中高生の時は、甲子園出場に憧れてがむしゃらに練習していました。甲子園には行けませんでしたが、大学生でも軟式野球部に入りました。どうやってチームとして団結し、リーグ戦で勝っていくかを考えながら、野球に対して一生懸命に取り組んでいました。
大学生の時に就職活動をしましたが、長く携わってきたスポーツに恩返ししたいという思いから、スポーツメーカーへの就職を決意しました。面接を受け、ご縁もあってスポーツメーカーのミズノに就職します。
数あるスポーツメーカーの中でもミズノに就職したいと思ったのは、大学3年生の秋ぐらいに野球部で台湾遠征に行ったことが一つのきっかけです。
当時、現地の選手やスタッフもミズノ製の野球グローブを使用していて、「すごく良いグローブだよね」という話で盛り上がりました。ミズノの用具一つで、世界中がつながれることに驚き、そんな仕事ができれば楽しいだろうと強く思った記憶があります。
スポーツメーカーでの働き方
スポーツメーカーの野球の事業部は、担当が大きくプロ野球とアマチュア野球に分かれます。私は15〜6年くらいアマチュア野球を担当してきました。
スポーツメーカーの営業は、担当エリアが決まっています。社内にいることは少なく、エリア内のアマチュア野球チームを直接訪問して、監督や選手と会話して、自社製品を使ってもらえるように交渉する仕事をしています。
アマチュア野球の場合、社会人チームから中学校・高校・大学などに担当先が分かれています。社会人チームは午前中から練習をしていることが多いので、午前中にチームを訪問して、夕方は放課後に練習がある中学校・高校の野球部に訪問するというスケジュールが一般的です。合間合間に、エリア内のスポーツショップに訪問して商談をします。
スポーツメーカーで働くモチベーション
私にとってスポーツメーカーで働くモチベーションは、ミズノの製品をいつも使ってくれている担当エリアのチームが、甲子園に出場したりプロ野球選手を輩出したりした時に、「ありがとう」と言われることです。また、スポーツ界のトップアスリートと直接話せる機会があることも、大きな刺激になっています。
失敗する経験もあります。よくやってしまう失敗が、チームオリジナルのユニフォームをつくる時にうまくコミュニケーションができず、チーム側の理想とスポーツメーカー側の商品のデザインに差が生まれてしまうというものです。
ユニフォームは、野球では「チームの鏡になる」と言われる大事なものです。だからこそ、チームごとに非常にこだわりがありますし、マークの色など細かい部分で理想と現実のギャップが生まれがちです。失敗を経験したからこそ、チームにおけるユニフォームの重要性に気付くことができました。
一番記憶に残っている失敗談が、ある甲子園に出場した高校野球チームのことです。そのチームが開会式に出場した時に、ミズノが提供しているアンダーシャツが、選手の汗によって色落ちしてしまう出来事が起きてしまいました。
たくさんお叱りの言葉をもらいました。ただ一方で、チームの監督が非常に素敵な方で、私が代替のアンダーシャツを納品しにいったら、「甲子園に出場するまで、若林さんと一緒に頑張ってきた。だからこそ、甲子園でもこのアンダーシャツで出場するよ」と言ってくれました。
それまで熱い気持ちで仕事に取り組んできたことが報われた瞬間でもあり、大きな失敗をしましたが、歯を食いしばって頑張ろうと思った瞬間でした。
スポーツメーカーで働くのに必要なスキルや適性
学生時代に長く野球という団体スポーツを経験してきたことが、今のスポーツメーカーの仕事で生きています。
会社でもみんなを取りまとめて、チームで一つの目標に向かって動くことが多いですが、特に大学野球を経験したことが本当に役に立っていると感じています。
そういう意味では、スポーツなどで学ぶことができる協調性は必要なスキルだと思います。
野球に興味がある子どもたちに向けたメッセージ
子どもたちの野球離れが非常に多いと言われています。さらに、首都圏では特にそうですが、野球ができる環境がほとんどないです。私の会社も、野球ができる場所つくりに力を入れています。
子どもたちに伝えたいメッセージは、本格的に野球をやったことがない子どもたちでも、ぜひキャッチボールをやってほしいということです。1対1でボールを投げる動きは、実は他のスポーツでもあまりありません。
キャッチボールをすると、投げる技術を向上する以外にも、どこに投げたら相手が取りやすいかを考えるようになるなど、スポーツと関係ない「気付き」を得ることができます。
キャッチボール一つから、色々な世界が広がっているのです。ぜひキャッチボールをやってもらって、それをきっかけに野球にもより興味を持って欲しいと思っています。

取材協力:若林宏樹(わかばやし・ひろき/1976年生まれ。群馬県出身。小学生で野球を始め、明治大学では軟式野球部に所属。1999年にスポーツメーカーのミズノに入社。現在は、野球とソフトボールを担当するダイヤモンドスポーツ事業部において、アマチュアスポーツ選手向けの商品販促を行う部署の課長を務める。)