世田谷区・高津区で活動する少年野球チーム「パイラスアカデミー世田谷」は、少年野球(学童野球)世代の子どもたちやその親に対して、職業紹介を通じて野球の魅力を伝えています。子どもたちに将来の働く姿を想像してもらうため、今回はスタジアムDJ・フリーアナウンサーとして活躍する南隼人さんに、非日常感を楽しめる空間づくりをする仕事の魅力を聞きました。

スタジアムDJの仕事内容

スタジアムDJの仕事内容は、スポーツ観戦のために来場したファンの誘導です。選手登場時の名前の呼び出しや、試合進行に必要なアナウンスを行うほか、ヒーローインタビューなども担当します。

また、時には観客とのコール・アンド・レスポンスで応援の一体感を生み出し、試合を一層盛り上げます。声と音を使い、普段の生活では感じられない非日常的な空間を作って、ファンを盛り上げるのが仕事です。

今の時代、テレビやスマートフォンさえあれば、人はいつでもどこでも簡単にスポーツを見ることができます。だからこそ、遠くからスタジアムに足を運んできたファンに、スタジアムに来て良かったと思ってもらえるようにするのが、スタジアムDJの役割です。スタジアムに一体感を作るには、ファンと信頼関係を築くことが欠かせません。スタジアムの係員であり、アーティストのようにファンと向き合って盛り上げる仕事をしています。

スタジアムDJの働き方

ではスタジアムDJの一日とはどのようなものでしょうか。例えば、18時開始のプロ野球のナイターゲームの場合、昼過ぎには球場入りします。打撃練習や守備練習中の選手を観察したり、話しかけたりして情報を集めます。選手と日々会話し、蓄積したデータが試合中のトークを盛り上げる材料になります。

担当によっては、試合後のヒーローインタビューを任されることもあります。選手と距離感が遠く、薄いデータしか集められなければ、ファンが耳を傾けたくなるインタビューは成立しません。何度も選手の下へ足を運び、顔や名前を覚えてもらうことも重要な仕事です。

人前で話すことが仕事なので、喋ることが好きなことは、スタジアムDJの仕事を務めるための大前提です。今では、インターネットで情報を集めたり、それを資料にまとめたりすることは簡単ですが、それをいかに人に伝えるかは、話す訓練が必要です。スタジアムDJには、スポーツの知識や実力はもちろん、人前で話す経験や責任感を持つことが重要だと思います。

スタジアムDJのモチベーション

私の一言で、ファンの皆さんの笑顔や、球団関係者に喜んでもらえることは大きなモチベーションになります。「◯◯選手の記念Tシャツが販売中です!」「みんなでタオルを掲げましょう!」。これらの言葉の積み重ねが、ファンの盛り上がりやチームへの貢献につながります。私の声で多くの人に喜んでいる姿を見られることは嬉しいです。

チームの勝利のために声をはっていますが、たとえ負けても、スタジアムを非日常的な空間に創り上げ、試合内容や結果に関わらず、ファンに笑顔で帰ってもらえることを目指しています。

スタジアムDJとの出会いは大学時代のオーストラリア留学の時でした。現地で見た野球大会は衝撃でした。試合にはニュージーランドやフィジーの選手が出場していたのですが、得点が入れば、スタジアムDJが音楽で観客を盛り上げ、選手たちもダンスをしていました。グラウンドは砂浜のようで状態は悪く、電光掲示板などはありませんでしたが、選手だけでなく、球場にいた全員が野球を楽しんでいた当時の空気感は忘れられません。そこで感じた一体感を多くの方々にも味わってもらいたいと思って活動しています。

少年野球を頑張る子どもたちへのメッセージ

自分で決断する力を身に付けてほしいです。小学校の6年間、中学校の3年間、高校の3年間、この間は周囲の大人がやるべきことを教えてくれて、時間も制限がある中に過ぎていきます。しかし、社会人になれば違います。時間や環境に縛られることが少なくなり、自分が何をするかは誰も決めてくれません。だからこそ、今から自ら考えて決断する力を養ってほしいと思います。

「何をしたい」「どうしたい」「どうなりたい」かを自分で決断し、期限を設け、その言葉に責任感を持つことが大切です。自らが定めた目標に全力で向かっていくことは、来る将来必ず糧になると思います。

取材協力

南隼人(みなみ・はやと/大学在学中オーストラリアに留学し、ニューカレドニア世界親善野球大会に日本代表選手として出場した。2012年から、横浜DeNAベイスターズのスタジアムDJ、2016年WBCの侍ジャパンのオフィシャルMCに就任。その後は、東北楽天ゴールデンイーグルスのラジオ実況や千葉ロッテマリーンズのリポーターを務める)
現在は株式会社Gifuitの代表取締役を務める。

書き手

上辻創太(かみつじ・そうた/1999年生まれ。同志社大学に進学し、スポーツ新聞部に所属。大学生アスリートへの取材を中心に活動)