東京都世田谷区・川崎市高津区にある野球教室のパイラスベースボールでは、少年野球(学童野球)世代の子どもたちやその親に対して、野球を通じて考える力や決断する力の大切さを教えています。今回は、横浜ベースボール整骨院 医科学研究所の吉田干城院長に、少年野球を頑張る子どもの怪我防止ために指導者が気をつけてほしいことを教えてもらいます。
取材協力
吉田干城(よしだ・たてき/横浜ベースボール整骨院 医科学研究所院長、日本体育協会公認アスレティックトレーナー、柔道整復師。小学1年生から硬式野球を始め、小学4年生の時から野球肘(内側骨端核障害分節化)に悩まされる。桐光学園から日本体育大学に進学するも、肘の靭帯を完全断裂して野球を引退。引退後すぐ、高校生の時に通院していた杉田接骨院(杉田一寿)の元で修業。同時期に、横浜ベイスターズのアシスタントトレーナーに就任。2009年に横浜ベースボール整骨院を開業)
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少年野球における怪我防止のために大事なストレッチ
少年野球に携わる子どもたちの身体を強くするには、練習を通じて身体に適度な負荷をかけることが大事です。ですが、それと同時に、練習した分だけ怪我防止に取り組むことが大事になります。
子どもでも簡単に取り組める怪我防止方法が、正しくストレッチをすることです。
ストレッチは、タイミングにより目的が異なります。練習前のストレッチは、適切な熱を筋肉にもたらして弾性力を生むことが目的です。運動後のストレッチは、張っている筋肉をほぐして疲労を回復させるために行います。こうしたストレッチを繰り返すことが、怪我防止のために一番効果的です。
また子どもの発育過程では、筋力を養成するのに適した時期や、持久力を養成するのに適した時期がそれぞれあります。その中でも思春期前の児童期は、筋肉の可動域を広げることに適した時期です。生物学的な意味でも、練習後のストレッチは怪我防止にとって大事になります。
少年野球の指導者は子どもと身体の動きを共感すべき
怪我防止のために、指導者に対して伝えている要素の一つが「運動共感」です。
運動共感とは、子どもが運動している時に感じている身体の動きを、指導者がシンクロして理解することを意味しています。指導者が子どもを怪我防止のために、運動共感ができているかどうかが重要です。
私の場合、小学生から野球肘を経験しているので、ピッチャーが投げた時に肘がどう痛むかよく分かっており、子どもの動き方を見れば肘を痛めているかどうかがすぐ分かります。また、怪我を経験してことがない指導者でも、運動共感はできます。例えば、怪我をしやすいと言われる「肘を下げながらボールを投げる」という動作をすると、不自然な胸の下がり方や腕が引っ張られる感じなど、怪我をしたことがない人でも不自然さを感じられると思います。こうした違和感を指導者が正しく理解して、その感覚を子どもと共有していくことが指導者の務めになります。
こうした情報共有は、運動経験が豊富で身体の使い方の感覚がよく分かっている子どもたちに対しては簡単です。ただ一方で、運動経験が少なく、身体の動き方をよく分かっていない子どもの場合、この感覚を言葉で伝えるのが難しくなります。
今、少年野球の現場では、この感覚の共有が昔より難しくなっていると言われています。子どもたちが外で遊べる空間がとても少なくなり、それと同時に子どもの体力も昔より落ちているからです。運動経験の少ない子どもたちともしっかり運動共感をしていくことが、今の指導者には求められています。
これから野球肘の撲滅にもっと力を入れる
私は全日本軟式野球連盟に所属しています。ですが、この連盟には長らく医科学に関する部署がありませんでした。今年になって遂に医科学に関する委員会が立ち上がり、怪我防止を考える活動が動き出しています。
これは裏を返せば、これまでの少年野球は野球肘が起きても当たり前の世界で、この環境を改善する動きはなかったといえます。これから野球肘を撲滅するために、もっと積極的に活動していきたいと思っています。
少年野球を通じて何を得たいかを考える【まとめ】
少年野球に携わる子どもたちには、野球を通じて何を得たいかを考えて行動に移してほしいと思っています。プロ野球選手を目指すだけではなく、純粋に野球を楽しんでプレーするという目的でももちろん良いです。
こうした目的意識を、自我が芽生えた小学校高学年以降の子どもはぜひ考えてみてください。そうすれば、野球との向き合い方が自ずと変わっていくと思います。