少年野球教室を世田谷区・川崎市で運営しているパイラスベースボールでは、どんな学びを子どもたちに届けるべきか、日々議論を重ねています。
第11回のオンライン会議の後半では、引き続きスポーツ医学を専門とする古島弘三先生に、コロナの影響で練習時間が減ったことで子どもたちに起きた好影響について聞きます。
ゲスト紹介
古島弘三(ふるしま・こうぞう/慶友整形外科病院スポーツ医学センター長。弘前大学医学部卒業後、弘前大学整形外科に入局。弘前大学大学院を卒業後、高岡整志会病院整形外科を経て、2006年から慶友整形外科病院に勤務。日本整形外科学会専門医。日整会認定スポーツ医。日本体育協会スポーツドクター。医学博士)
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コロナで練習を休んだ高校生の身長が「3cm」伸びた
小林巧汰【パイラス代表】(以下、小林):コロナの影響で練習できないという課題がある一方で、練習しないうちに怪我が治るなど、スポーツをする子どもの健康に良い影響が出ていると聞きます。
古島弘三(以下、古島):その通りです。自粛期間が開けて今は増えていますが、コロナの時期は野球少年が外来診療を受けに来る数が減りました。また、コロナ前まで猛練習していたのに、コロナで練習を休んだことで止まっていた身長が伸びだした子どももいます。中学3年生から高校1年生まで身長が伸びていなかったのに、今年高校2年生になって3cm伸びたという子どももいます。栄養を摂取していても、野球の練習で身体に負担をかけすぎているため成長が止まっているのです。また、休養が取れたので睡眠時間が長くなったために、それで背が伸びた子どももいます。
成長ホルモンが出る時間帯は22時から2時までの4時間
小林:やっぱり睡眠時間は子どもの健康にとって重要なのでしょうか。
古島:睡眠が一番大事です。背を伸ばす上でも睡眠が一番大事となります。成長ホルモンが出る時間は、深夜22時から2時までと言われています。しかし、過度な練習で疲れ過ぎていたり、怒られてばかりで精神的なストレスを感じたりしていると、眠りが浅くなり成長ホルモンの出が悪くなってしまいます。成長ホルモンには、怪我を治す治癒能力もあります。
もう一つ、深夜まで起きている小学生は情緒不安定になりやすいです。怒りやすく、イライラしやすく、集中力の低下にもつながってしまう。つまり、睡眠は健康の維持にも身体の成長など諸々に影響があるということです。「寝る子は育つ」という言葉は嘘ではありません。外来診療には、中学1年生で身長180cmくらいの背が高い子どもが来ることがあります。そうした子どもたちに話を聞くと、みんな共通して寝るのが大好きであり、20時には寝ているという子どももいます。
子どもは21時までに寝るのがベスト
小林:子どもは何時までに寝たほうが良いのでしょうか。
古島:深夜22時の成長ホルモンが出る1時間前、つまり21時に寝るのが良いです。成長ホルモンには出るリズムがあります。例えば22時に寝たら、成長ホルモンのシャワーが出るのは1時から2時くらいまでになります。寝る時間が遅くなればなるほど、そのシャワーが出るのは遅くなります。人間は深夜3時になるとシャワーを止めるホルモンが出てくるので、深夜2時に寝てしまうと成長ホルモンが出ないで過ごすことになります。
睡眠時間を増やせば身長は「5cm」伸ばせる
小林:私の両親も20時半には寝なさいと叱ってくれました。身長は177〜178cmとそこまで高くないですが、叱ってくれて良かったかもしれません。
古島:先天的な要素もありますが、栄養摂取や睡眠時間を早くから意識して調整することで、両親の身長を基に予測できる身長からプラス5cmまで伸ばすことができます。意識改革は、小学6年生か中学1年生までにしないと駄目です。中学2年生だと遅い。身長が5cm違えばプレーは変わります。腕が長ければ走るスピードに有利であるなど、身長は高いに越したことはありません。もちろん、身長が低くても頑張っている選手はいます。ただ、高校時代から身長が相当高いピッチャーへの周囲の期待度は違います。睡眠が持つ影響を、指導者も知っておけなければいけません。
小林:最後に、少年野球の保護者に向けたメッセージをお願いします。
古島:いくら強いチームだとしても、子どもに怒鳴ったり、怒ったりする指導者のもとで野球をやるべきではありません。そうした勝利至上主義でやっているチームでは、遠征試合が多かったり熱中症になってしまう子どもも多かったりします。子どもが野球を嫌いになるかもしれません。もし見学時に指導者が入っていたら、入団しないほうがいい。ミーティングの場で子ども全員を強制的に立たせるような指導者ではなく、みんなが座って大人が子どもの目線に合わせて話すような指導者が理想的です。
練習も、午前中の2時間だけで良いと思います。子どもたちが6〜7割くらい満足しているくらいで家に帰したほうが、子どもたちに「もっと野球をやりたいのに」という気持ちが芽生えます。そうすると、子どもたちが自分で考えて野球をするようになるのではないでしょうか。
古島さんのインタビュー前編はこちらから